福田和也×石丸元章「男の教養 トンカツ放談」
2012年に休刊した雑誌「CIRCUS」の連載を単行本にまとめた、現在では入手困難となっている本書。
単なる時事批評ではなく、東京のトンカツ屋を中心に巡りながら語り合う異色の対談本となっている。
福田和也のトンカツ愛は別の対談本でも語られていたが、"トンカツ"を冠する本書では何が語られているか知るために読んだ。
石丸元章のアウトローな過去もさることながら、福田和也の「二度揚げしてるから衣がしっかりしてる」と、しっかり観察するなどトンカツへの偏愛、知識には驚かされる。
福田は本書の中で教養についてこのように語っている
「学生に説明する時は、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』という小説を例に出すんです。その中でゲーテは『教養とは自分になることだ』と答えを出している。
つまり教養とは自己目的なんですよ。知識は稼ぎにつながるけど、教養はカネにならない。でも、ムダなものを身に付けることが一番大切だし、優雅であるということです。自分という人間はなかなか自分にならないからね。」
この言葉の中の「教養」をトンカツに置き換えて考えてみてほしい。
トンカツは無数にある食事の中の一つでしか無い。トンカツを食べたところでカネにはならず、その日一日は充足感に満ちるがいずれ消えるものだ。
しかしトンカツ屋を巡りこれまで訪れることのなかった街を訪れることで、これまで知ることのなかった街の輪郭が見えてくる。
本書を頼りに私もトンカツ屋巡りを始めた結果、素晴らしいトンカツ屋に巡りあえた。
大井町「丸八」ではトンカツの概念が覆るしみじみと旨いトンカツを食べた。
老夫婦が切り盛りする店であり行く先は短い。
大井町には馴染みがなかったが何度でも通いたくなる街であることを発見した。
トンカツを通し教養を見つける。生きづらい世の中を少しでも自分のものにする。
それが本書から学べることだ。